“「いやあ、まあ、やってみたいことはありますよ。毛虫の話だとかね」”

 

”「すごく小さな毛虫が主人公の話です。三十匹同じものが生まれるんだけど、同じ顔してるんです」”

 

”「毛虫が卵からゾロゾロ生まれてくるでしょ。どんどん死んでいくんですよ。それで最後に生き残ったやつが主人公なんですよ。特に、なぜこいつが生き残ったのかというのが、よくわからないっていう映画なんです」”

 

”「それがね、歩道の街路樹の根元についてる毒蛾の幼虫なんです」”

 

(インタビュアー)ーーー話にならないじゃないですか。

 

”「なります。これ、ものすごく面白いんです。その虫たちの時間と目線で世界を描いていくという。そうすると、その草がなくなってしまうということは、死ぬということですから、食草を探さなくてはいけない。だけど、それがよい植物ならいいですよ、そうじゃないんですよね。道端の一番うとんじられる草が自分にとっての大事な食草でね。そこに生まれてしまって、それで、食草がなくなってしまって、兄弟は死んでしまうんだけれども、這うようにして隣の食草に辿り着くという話をね、子供のための話を虫の世界の映画として作りたいという。僕は面白いと思うんだけどな。

つまり、人間の目線でものを拡大して見ることはできるけれども、毛虫という微小なものから見た世界、っていうのは描かれたことがないんですよね。大抵のものはクローズアップしてるだけなんです。でも、本当はそうじゃないと思うんですよ。小さな虫にとっては、ものすごく大きな葉になるわけですよね。だから、その葉がどういうふうに見えるかって考えると、巨大な草っていうか、牧場に見えると思うんですよね。それで、向こうのほうでゾロゾロ這ってる牛みたいなやつがいて、それがハダニなんですけど、ノロノロ這ってるんです。あとは、ところどころに大きな石ころとかが転がっていてね、それが排気ガスのススだったり、埃だったり。毛が生えてて、穴が開いてて空気がシュ、シュって出てるんじゃないかなとか、勝手に想像してるんですけど、そういう世界にしていくと、ものすごくシュールな世界になるんですよ。でも、それは道端の風景のわけですから。雨粒のスピードも違いますからね」”

 

”「ええ、それは作りたいですね。だから今回も、それをやるか『もののけ姫』やるかだったんですけど、『もののけ姫』のほうを先にやらないと逃げだなと思ったから」

 

(インタビュアー)ーーーそうですね(笑)。

 

「そうですね、じゃないですよ(笑)その『ボロ』っていう企画は諦めたんですけどね。でも、企画書書いたら、ものすごく面白いんですよね」”

 

宮崎駿
「風の帰る場所」1997.7.インタビューより

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